TAJYURO JYUNAIKI

解 説

男は刀を抜いた。女は男を愛した―――。

夢も希望もなく、大義もないその男はただひたすらに強かった。
毎日を独り生き抜くその女は、大きな心で男を慈悲深く包んだ。

「木枯し紋次郎」「まむしの兄弟」「狂った野獣」「極道の妻たち」数々の傑作を撮り続けてきた84歳の巨匠・中島貞夫監督が20年の沈黙を破り、帰ってきた。

「刀を抜く理由」を見つけた男が魅せる、クライマックスの30分に及ぶ大立ち回り。そこで躍動する多十郎/高良健吾の肉体、そして殺陣。凛として美しいその佇まい、そして多十郎を貫く強い眼差しと儚げな表情が観るものを魅了するヒロインおとよ/多部未華子。大義を胸に上洛した多十郎の義理の弟・数馬/木村了。ラストに、最強の敵として立ち塞がる抜刀隊隊長・溝口蔵人/寺島進。

これらの熱い“今”の顔たちを得た中島貞夫監督が満を持して2019年に送り出す最新作、映画『多十郎殉愛記』は京都の映画界が育んだ“ちゃんばら”時代劇。型でもアクションでもない役者の「肉体の表現」。そしてカットを割らず、CGを使わず、役者の動きのみで生死を賭けた闘いを撮るスタッフの「技術」。中島監督と熟練のスタッフによって平成最後の今、“ちゃんばら”時代劇が蘇る!

殺陣の数だけ「ドラマ」があり
殺陣の数だけ「愛」がある。
過去100年、日本映画は様々なチャンバラ映画を生み出してきた。様式美に頼るもの、血しぶき上がる映像表現に頼るもの……しかし、何と言っても殺陣の魅力は生身の人間が見せる極限のパフォーマンスの魅力に尽きるのではなかろうか。本作品は徹底的にそのことに拘りたい…この中島貞夫監督の想いに応えたのは錚々たる役者陣だけではない。監督補佐は中島監督の教え子で「私の男」でモスクワ国際映画祭最優秀作品賞を受賞した熊切和嘉監督が務める。かつて中島組についていた頃は若手だったスタッフが一線で活躍する立場として再び監督を支え、京都の伝統を支える貴重な職人たちの技術と心意気と共に、時代に翻弄されながらも愛に生きる男の物語を作り上げたのである。

京都時代劇映画のニューヒーロー・多十郎の危うい魅力に、ヒロインおとよとの殉愛にご期待頂きたい。

多十郎殉愛記